The Ends
of the World
Deserve Witnesses
Jing Huang
よい写真は、リアルとシュールな世界が絡み合うように描写されています。そこに壊すことのできない概念などは一切なく、観念的なエクスタシーに近い感覚です。
中国南部の深圳市で生まれ、子供の頃、最初は絵画を学んでいたのですが、初めて写真を撮影した時に絵を描くよりも夢中になれることに気づいてしまいました。それ以来、写真に魅せられ、広州美術学院で写真とデジタルを専攻しました。
よい写真を撮るには、撮影時の心の状態が大切だと思っています。深い瞑想状態のように、撮影者とその状況、そして撮影するシーンが一体となり、バランスがとれた状態になると、穏やかでありながらも力強く、潜在的なエネルギーが引き出されるのです。
どこかシュールな雰囲気を感じさせるこの写真は、廈門(中国福建省)にある鼓浪嶼(コロンス島)を旅行している時に撮影しました。この「鼓浪石 」と呼ばれる岩礁は有名な観光名所で、何百人もの人々が記念写真を撮る人気スポットです。石の上に登る人もいるのですが、そうすると写真を撮影する側は岩の下にいるので、撮られる側は頭を下に向けた状態になります。こちら側からは顔が見えず、厳粛な敬意の姿勢で立っているのです。
この光景を目にして、ふとあるイメージが浮かびました。写真を撮られている人たちは、ねじれた木の下でなにかを嘆いているように見えたのです。そのシュールなシーンを捉えたのが、どこか物憂げでインパクトの強いこの作品です。
特定のテーマを決めずに、即興で撮影するのが好きなので、感性に従って無作為に瞬間を切り撮っています。時折、撮影中にまさにこの瞬間だと感じることがあります。撮影に没頭すると集中力が高まり、捉えた瞬間にまるで引き込まれるような感覚が得られるのです
この写真は大学時代に撮影した作品のシリーズ「Pure of Sight」のひとつで、このシリーズに収められた写真はいずれも、ドラマティックな感情を表現したものとなっています。
メカニカルなデザイン、機械式時計やヴィンテージカーが好きですが、カメラは言うまでもありません。完全にライカのメカニカルな設計の虜になっています
いつでも写真を撮影できるようにしています。カメラの電源を入れたままにしておき、カメラを構えるとすぐに撮影できる状態をキープしています。シャワーを浴びている時と睡眠中を除いて、常にカメラを身に着けているのは、何か特別なものを見つけた時や撮りたい気分になった時に、その瞬間を逃さないようにするためです。
私は、功利主義的な考え方やうわべだけの要素をできる限り排除した写真を選ぶようにしています。
カメラを多数所有していますが、ライカが一番手にしっくり馴染むと感じています。つまり、長い間 ‘身に着ける’ のにふさわしいカメラだということです。ライカのカメラの最も重要な点は、きわめて堅牢だということです。初めて出会ったのは「ライカM4-P」で、それ以降「ライカIIIf」「ライカM2」「ライカM3」「ライカM9-P」「ライカM (Typ 240)」を愛用しています。
みなさんに伝えたい面白いエピソードがあります。大学に入学してすぐ、講師が生徒全員に対し、在学中に出される課題をこなすためのデジタルカメラを購入するように指示しました。私はお金をかき集めてカメラ専門店に行ったのですが、そこでフィルムカメラの「ライカM4-P」に出会ってしまったのです。有り金をすべてつぎこんでも足りず、さらに2か月分の生活費も充てる必要があったのですが、そのカメラを購入すると決めました。その結果、課題のために必要だったデジタルカメラは、4年間ずっと借りて過ごす羽目になりました。
写真が自分の人生を理解するツールだとは捉えていません。表現の一種であり、起こった出来事に対してどう理解したのかを投影したものが写真だと思っています。もし若手の写真家に独特な写真を撮るコツを教えなければいけないとしたら、それは愛の哲学、愛の叡智ではないかと伝えるでしょう
LOBA newcomer award in 2011
Jing Huang は、作品 "Pure of sight" で、2021年度ライカ・オスカー・バルナック・ニューカマーアワードを受賞しました。