@Roselena Ramistella

In Conversation: Roselena Ramistella and Gianni Berengo Gardin
In Conversation:
ロゼレーナ・ラミステッラとジャンニ・ベレンゴ・ガルディン
ライカギャラリーミラノでは、「ライカⅠ」誕生100周年を記念して、ロゼレーナ・ラミステッラとジャンニ・ベレンゴ・ガルディンの作品を通じた対話が繰り広げられます。
100周年を迎える今年、世界各国のライカギャラリーで写真を通じた対話の場: In Conversation が展開されています。毎月異なるギャラリーが、現代の才能と「ライカ・ホール・オブ・フェイム・アワード(LHOF)」の歴代受賞者たちを繋げていく写真展。6月4日からの展示で対話を繰り広げるのは、二人のイタリア人アーティスト——人道的な視点で作品を生み出すロゼレーナ・ラミステッラと、社会派ドキュメンタリーをモノクロームで撮影するジャンニ・ベレンゴ・ガルディン。才能あふれる二人の作品が共鳴し合い、対話と発見の空間が生まれます。
@Roselena Ramistella

ライカフォトグラフィーの100周年について、どのように感じていますか?
100周年という節目は、表現手段と記録手段としての写真の力について、あらためて考えるきっかけになります。これは単にひとつのブランドにとってのマイルストーンではなく、写真がいかに私たちの世界観に影響を与えてきたかを浮き彫りにします。デジタル画像があふれる現代において、ライカの歴史は、写真は芸術であり、時代の証人であることを再認識させてくれます。写真は感情を呼び覚まし、人間の経験に対する人々の認識をかたちづくる力を持っているのです。
ジャンニ・ベレンゴ・ガルディンは、写真界の偉大な巨匠の一人であり、あらゆる世代にとって真の指針となる存在です。
正直なところ、私には真のメンターはいません。個人的な経験や人々との交流が、私の創作活動の基盤となっています。私は美術史に深く魅了され、歴史書をめくることで大きなインスピレーションを得てきました。おそらく私の本当のメンターは、歴史そのものであり、そこで関連してくる出来事なのです。しかし、これはほとんど無意識的な要素です。人生で経験したことが読んできたことと結びつき、やがて自分の言語を形成し、自分自身の 「個性」を形成していくのです。
@Gianni Berengo Gardin

この対話で見えてきた共通点や相違点は何ですか?
私とジャンニ・ベレンゴ・ガルディンの作品の対話から浮かび上がるのは、「人間の存在」をさまざまな文脈の中で探ろうとする共通の意志です。私は色彩を用いて、一つひとつのシーンからできる限り多くの情報を引き出そうとします。一方で、ガルディンはモノクローム写真の巨匠であり、本質に焦点を当てるアプローチを取ります。
そんな私たちを結びつけているのは、「物語を伝える」という姿勢です。一枚の写真に託された短い物語であれ、長期にわたるプロジェクトであれ、私たちはどちらも、ある個人や共同体の顔や出来事、変化を語ろうとしています。私たちの作品における「変化」は美学的なものですが、それぞれの時代や社会、政治的背景は異なります。それでも、感情のレベルでは何一つ違うものはありません。
ジャンニ・ベレンゴ・ガルディンの写真の中で特に気に入っているものはありますか?また、その理由を簡単に教えてください。
ジャンニ・ベレンゴ・ガルディンの代表作とも言える写真は、一目でそれとわかる一枚です。1977年にイギリスで撮影されたこの写真には、広大な海を背景に駐車している小さな車が写っています。車内には一組の男女が座っていて、ふたりとも物思いにふけっているように見えます。背景には静かに広がるアイリッシュ海。この写真には時が止まったような雰囲気があり、見る人の心にさまざまな問いを投げかけてきます。彼らは別れを告げようとしているのか、それとも恋人同士なのか――。
登場人物ふたりの孤独感がひしひしと伝わってきて、まるで現実世界から切り離されているかのようです。ただ海を見つめながら、外界から離れた自分たちだけの静寂の中にいるように感じます。とてもシンプルな場面であるにもかかわらず、まるで感情や解釈の世界にいざなわれるかのような深い余韻を残す――そんな作品だと思います。
@Roselena Ramistella

デジタルメディアの時代において、ギャラリーはどのような役割を果たすと思いますか? 特にご自身の作品にとってはどうでしょうか?
ギャラリーは、アナログな展示を通じて物語を伝える場であり、アーティストと鑑賞者がリアルの空間で出会い、意義ある対話を生み出すことができます。そうした交流を通じて、ドキュメンタリー写真の可視性が高まり、芸術を中心としたコミュニティが築かれていきます。それは、社会的・文化的なテーマへの関心や意識を深めることにもつながります。デジタルメディアが主流となった今でも、ギャラリーのような場は、ドキュメンタリー写真に対する理解と価値を高めるうえで欠かせない存在だと考えています。
写真展では二世代間での視覚を通じた対話がテーマですが、どのようなアプローチをとりましたか?
私は、ジャンニ・ベレンゴ・ガルディンの写真と自身の作品とを直接並べることで、世代を超えた視覚的対話というテーマに向き合いました。異なる文脈、時代に生み出された作品であっても、同じような感情や物語を語りかけることができる——そんな可能性を示したかったのです。
私たちの対話は、スタイルやテーマの違いを浮き彫りにするだけではありません。それは同時に、時を越えて人の体験やものの見方がどのようにつながり合っているのかを観る人に問いかけるものでもあります。
@Gianni Berengo Gardin

展示作品のテーマは何ですか?
私の写真は、社会的・文化的・地政学的なテーマを扱っています。『Men of Troubled Waters』では、航海中に移民を救助するシチリアの漁師たちを撮影しました。『The Healers』は、祈りや民間療法、代々受け継がれた癒しの知識によって人々を治療する年配の女性たちを描いたシリーズで、これまで記録されてこなかった伝統に光を当てています。『Deepland』という2016年から継続中のプロジェクトでは、かつてラバたちが通った古道をたどって旅をしながら、変わりゆく農村コミュニティの暮らしを記録してきました。私の作品は、シチリアの歴史と個人的な物語を織り交ぜながら、より大きな視点で世界的な問いを投げかけるものです。シチリアは私にとって、強いアイデンティティと文化的境界を象徴する「辺境の地」。地理的にはヨーロッパに近くても、その精神的な距離はしばしば遠くに感じられます。
インスピレーションの源は何ですか?
創作のインスピレーションの源は、個人的な体験や人との交流にあります。人間に焦点を当てた物語を語ることが大好きで、それが私の仕事の基盤になっています。芸術史にも大きな魅力を感じており、歴史の本をめくるたびに大きな刺激を受けます。もしかすると、歴史そのものが私の真のメンターなのかもしれません。さまざまな出来事同士がどのようにつながっているのか、その流れに魅了されるのです。
大学で政治学を学んだことも、物事をより広い視点で捉えるための一助となっています。私にとって、写真やテーマとの関係性は、より深いところで、時に言葉では捉えきれないところで築かれているものなのです。

ロゼレーナ・ラミステッラ
1982年、シチリア生まれ。イタリアの現代写真家であり、主に社会的・人道的・文化的側面に焦点を当てた作品を制作している。大学で写真とコミュニケーション学を学び、国内外で活動してきた経歴を持つ。これまでに、個展・グループ展・写真フェスティバルなど、数多くの展覧会に展示されている。また、『ナショナルジオグラフィック』、『インターナツィオナーレ』、『マリークレール』など、さまざまな出版物に写真が掲載された。彼女の故郷であるシチリアは、一貫したモチーフとして作品群に共通しており、社会的・文化的経験の豊かさを視覚的に描き出す核となっている。
撮影に使用したカメラとその理由を教えてください。
現在「ライカSL2」を使っているのですが、その性能と画質には目を見張るものがあります。このカメラは長年にわたり愛用してきた、“神聖な”宝物のような存在です。プロジェクトによっては「ライカQ3」を使うこともあります。「ライカQ3」の軽量さと控えめな佇まいは多くの場面で大きな利点となり、被写体に干渉することなく、ありのままの瞬間を自然に捉えることができます。

ジャンニ・ベレンゴ・ガルディン
1930年10月10日、サンタ・マルゲリータ・リグレに生まれる。1950年代に写真家としてのキャリアをスタートし、アンリ・カルティエ=ブレッソンから大きな影響を受ける。主に、ルポルタージュ風の人道的な写真に焦点を当て、とりわけイタリアにおける人々の暮らしを捉えてきた。『イル・モンド』、『レスプレッソ』、『ドムス』などの著名な雑誌に写真掲載。撮影は一貫してアナログとモノクロームにこだわり、これまでに250冊を超える写真集を出版。20世紀を代表する写真家のひとりとして、今日も高く評価されている。
写真は過去数十年でどのように変化したと思いますか?
過去10年で、写真は大きく変化しました。より身近なものになった一方で、ソーシャルメディア上にあふれる絶え間ない画像の流れが、視覚的な過剰刺激を引き起こし、多くの写真の訴求力を弱めています。
さらに、AIによる自動画像生成も新たな課題をもたらしています。ドキュメンタリー写真でさえその影響を免れることはできず、画像加工や操作によって現実と虚構の境界があいまいになることがあります。
だからこそ、写真は意識的かつ深く向き合うための手段であるという写真の本質に立ち返るべきだと考えています。急速な消費や、今日の「画像の洪水」から距離を置く必要があります。それには、単なる記録にとどまらず、私たちが生きるこの世界をより深く理解するための手がかりとして、写真プロジェクトに意義を持たせることが重要です。
今後の写真の可能性と課題についてどう考えますか?
写真家として大切なのは、マンネリに陥らないことだと思います。自らを見つめ直し、常に変化と成長を続けることでしか、独自の視覚表現は育まれません。同時に、写真作品が正当に評価され、適切に報酬を得られることも重要です。写真は現代アートの一翼としてもっと認められるべきだと思います。美術館や文化機関には、写真の芸術的価値を見直し、写真家たちが活躍できる場をより多く提供してほしいと願っています。